映画ははじめの5分

映画ははじめの5分で決まる、私はそう思っている。実際、記憶に残る映画は始めの五分で見る人を物語に引き込む。

例えば、以前にも紹介した”A League of Their Own”のはじまりも見事だと思う。(ただ邦題は「プリティー・リーグ」、これはあまりにひどい)。

まず最初の3分で、主人公の一人、Dottie(Geena Davis as Dottie ”Queen of Diamond”)の今と人生を観客が判るよう的確に描いている。まず家の外観をみせ、大きさや庭の様子、部屋のショット、チェストの上の写真、部屋の様子から夫婦の寝室でないこと、手の指輪(結婚指輪ではない)で夫はすでに亡くなっていること、それなりに満ち足りた結婚生活だったこと、子供は二人、夫の死後に娘と同居、関係は良好、かつて野球をしていた、元キャッチャー、野球を離れた暮らしをしてきたこと、孫は二人で男の子、孫に慕われていること、何らか理由(妹の夫が原因か)で妹と疎遠になっていること、アクセサリーはシンプルなものが好み、理知的だがけっこう体育会系であること、そしてこの旅に出ることを迷っている。旅支度の様子を見せながら、これだけのことを判らせる。さすがに女性の監督だなと思う。

娘の車で空港へ向かう、家を出るショットの3分30秒から”Now and Forever”が始まる。長距離バスのショットがいくつか、風景の変化で長旅であることを示し、”Cooperstown N.Y.” の歓迎ボードで、目的地が野球の聖地、野球殿堂(”The National Baseball Hall of Fame”)であることがわかる。参考までに、AAGPBL (All-American Girls Professional Baseball League)

バスを降りた彼女が隣接の球場にはいると、そこでは楽しげに野球を楽しむ、かつてのリーグの面々がいる。”I miss the day we met and all that followed after” で歌が途切れ、1943年に場面は変わる。ここまでで5分半。お見事!

黒澤明監督の『用心棒』や『赤ひげ』、”The Spitfire Grill”(邦題:この森で、天使はバスを降りた。原題をカタカナにした方がまだマシだ)、ヒッチコックの作品の数々。挙げだしたらキリがない。

ともかくも、映画は最初の5分だ。