「あん」 映画と二人の人

見たかった映画「あん」( 監督・脚本:河瀨直美さん)のBlue-rayが届いた。見終わって、「あん」は音の映画だと感じた。音楽は最小限にして、風の音、外の音、人の話し声、生活音がつねに背後にある。その音の存在が、映画に奥行きと現実感をもたらしている。

映画の終わり、風に枝を揺らす木々と、その間を吹き渡る風の音だけの映像が続く。そこに「私たちはこの世を見るために、聞くために、生まれてきた。…だとすれば、何かになれなくても、私たちは、私たちには生きる意味があるのよ」と、徳江さん(樹木希林さんが演じるハンセン病患者)の声が重なる。

人は見たいもの聞きしたいものしか目に耳にも入ってこない。私たちの周りには常に音がある。しかし、よほど意識していないとそれらの音の大半は耳に入らず、存在しているにもかかわらず「ないもの」になってしまう。
聞こえないものを聞こうとする、見えないものを見ようとする、見逃さない、聞き逃さない、そういう意識はつねに持っていたいと思う。

もう一つ、ハンセン病に関してメモしておきたい二人の人。

小笠原 登(おがさわら のぼる、1888年7月10日 – 1970年12月12日)、医師でハンセン病(らい病)の研究者、元京都帝国大学助教授。以下に詳しい。

井深 八重(いぶか やえ、1897年10月23日 – 1989年5月15日)、日本の看護婦。
私は、井深さんがハンセン病患者の看護に生涯を捧げたのは、あまりにも深い絶望のゆえではないかと思う。ハンセン病と診断された(3年後に誤診と判明)結果、家族、職場、婚約者のすべてが彼女との関わりを拒み、いわば療養施設に「棄てられた」。八重さんには生きる場所が療養所とハンセン病患者のなかにしかなかったのだと思う。以下に詳しい。