八幡堀の街

八幡堀を歩きたくなった。歩くなら天気のよい、早朝がよい。観光地だけに朝8時を過ぎると人が増え始める。日牟禮八幡宮への参道には車を駐めるに十分な場所がある。この日、まだ駐車している車はほとんどない。参道脇の店もまだ開いてい...

殉ずるに値しない国は棄ててもいい

西川美和さんの小説に、『その日東京駅五時二十五分発』という小品がある。彼女の叔父の体験(手記があった)をもとに、終戦の前日から翌日までの二日間の出来事を描いたものだ。 通信部隊に配属された少年兵はただ訓練に明け暮れていた...

白馬村から八方尾根に

井上荒野『キャベツ炒めに捧ぐ』に、「ふきのとう」をめぐって、亡くなった夫と訪ねた信州に再び足を向ける話がある。目指すところは高速道路のインターを降りて、そこから一般道を一時間ほど、途中で「二つ連なって現れる湖」と、その道...

風薫るのは皐月なのか

「風薫る」ときけば、ほとんど反射的に「五月」を思い浮かべるのだが、いつ頃からそうなったのだろうか。 風かをる軒のたちばな年ふりて しのぶの露を袖にかけつる は、鎌倉時代初期(1204年)の「秋篠月清集(藤原良経の私家集)...

夜明けに散歩する理由

私が生活スタイルを朝型に変えたのは三十代も終わる頃だった。昼間の仕事で疲れ果てた出張先で、ホテルに戻ったのが夜の10時過ぎ、あまりに眠くてそのまま横になった。はっと目を覚ますと午前3時だった。疲れもとれ、思いのほか頭もす...

善く死ぬために善く生きる

妻が突然にこの世を去って5年が過ぎた。52歳だった。妻は3.11の惨事を知らずに逝った。私たちは30年目の結婚記念日をともに迎えることはできなかった。 自分がまさかこんなに早く独りになるとは思ってもみなかった。私の方が三...